『すずめの戸締まり』を観た.

本・映画

 ネタバレになるため大部分の感想は割愛することになるが、我が輩、観てきたばかりのテンションであり、語りたい欲を抑えられないため、ネタバレにならない程度で少しだけ感想を書いてみる。

 まず最も良いと思った印象的なシーンは、蝶々の登場。
 この蝶々、劇中に3回登場する。3回とも同じ蝶々が出てくるのかどうかは不明だが、今回はその話は置いておく。蝶々は喋るわけではないし脇役ですらない。2時間ほどある尺の中で数秒しか出てこないちょっとした小道具的な役割。なのでワカチコワカチコな話であります。
 で、その蝶々、3回とも大事なシーンで登場する。大事な『転換点』には、必ず、蝶々が飛ぶ。蝶々が飛ぶのを合図に、物語が動く。ネタバレになるから不鮮明にしたまま語るが、つまりは"何かの始まり"を表現しているように思える。
 蝶々が飛ぶ時、何が始まるか? その答えは今ここでは言わないが、もうちょっと、もうちょびっとだけ鮮明に解像度を上げて簡潔に説明したい。そう考えていたら、以下の一文が脳内に浮かんで、腑に落ちた。

絶望を表す蝶々が、恐ろしくも美しくも感じた。

 つまりは、主人公たちの「絶望」が始まるときに蝶々は飛ぶし、「希望」の始まりにも蝶々が飛ぶ。そういうことです。
 その蝶々が個人的には最も印象的なシーンだった。

 ✳︎

 今作のテーマは『自分との対話(克服)』だと思う。それは見事に表現されていたし、物語としてはしっかりと着地していた。311を絡めたのも良かったし、しっくりと来た。
 しかし、だからこそ、恋愛の部分が疎かになっていた。2時間という尺では足りなかったようだ。
 にもかかわらず少々駆け足に無理矢理に「好き」を言わせていた気がしている。感動の底上げをするためにも、だったら今作では恋愛(互いの好きの想い)をそこまで発展させなくてよかったのかなぁ……劇中では。
 そう思う気持ちがある半面、主人公を動かすための「好きな異性の相手」が存在しなければ物語はまた違う方向へ行っていただろうし、話も進め難いだろうし、根本的に成立しなかったかなとも思っている。
 何がいいたいかと言うと、新海誠さんだからこそ書けるいつものあの恋愛をもっと見たかった。秒速や言の葉や君の名はや天気の子のようなあの恋愛を今作ではあまり見れなかったため、そこが物足りないと思っている人は多いのではないか、と勝手に憶測的に話してみた。

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 あとは、やっぱり、段々とエンタメ感が濃くなってきたなぁと感じて、新海誠さんっぽさがだいぶ薄まったなぁと思った。
 新海誠さんの得意な、切なさを感じさせる恋愛、消化不良感のある上手な引き際、少しダークなシリアス感、美しい風景背景、新海誠さんには見えている綺麗な東京、主にこれらを新海誠ファンは求めているはず。
 個人的には『言の葉の庭』がベストだし、大衆的には『君の名は。』くらいがちょうどいいバランスだったと思う。王道でありながら、新海誠ワールドが広がっていて、とても良い調合だった。
『天気の子』も『すずめの戸締まり』も面白いには面白い。今作も終わったあとは大変気分よく映画館のスクリーンから出られた。だけど、だからこそ、少し寂しい。新海誠ファンは……少し寂しい……。なので、次回作では新海誠ワールド全開でつくっていただきたい。そう勝手に願うのでした。