ノートに記された謎の文字列『キムラ』。

日記 & 小説

 もしかしたら俺氏———
 「お祓い」が必要かもしれない———。

雨

 ———雨。

 ジメジメとした空気の質感に、いよいよ耐え切れなくなった俺氏は、それはそれは不服そうな表情でベッドから起き上がる。

 アラームに起こされるのはもちろん嫌だけど、湿度に起こされるのも、なかなかに気持ちが悪い。

 慣れた手つきでカーテンをあける。

 とくに意味はないのだけれど、なんとなくレースをずらし、なんとなく窓の向こうを覗いてみる。

 いつもとなにも変わらないであろう外の世界が、なんだかちょっと気になっちゃって、なにかにちょっと期待を寄せてみたり———。

 もちろんエイリアンがいるわけでもなければ、ミサイルが飛び交っているわけでもない。
 視力が低いのでよくは見えないが、おそらく人間だと思われる生物が皆せっせと傘をさし忙しそうにして歩いている、それだけだ。

 そんな、あたりまえのような日常(風景)に、当然ながら期待は裏切られてしまうわけだが———いや、むしろ期待どおりなのかもしれない。

 「そんないつもと変わらない日常」をわざわざ認識しておくことで、どこか心の奥底で安心を感じたいのかもしれない。

風呂

 ———入浴と朝食を済まし、すっきりリセットされた状態でデスクに就く。

 「今日もいつもとあまり変わらない。あたりまえの日常を無理なく頑張ろう」

 と、清々しい落ち着いた気持ちでノートを開く。

 ノートには、なぐり書きのメモが大量にうごめいている。

 というのも———俺氏は、とにかくメモをとる。

 気になること、思い出したこと、思いついたこと、やりたいこと、やること、調べたいこと、面白いとおもったこと———とにかく色々。

 「緊急性の低い内容のものは後からやろう」

 と、毎日メモが蓄積されていく。だから定期的にノートをチェックしている。

 今日はちょうどそのチェックをする日。
 と言っても厳密にその日を定めているわけではないんだが———。

ノート

 黒インクが乱雑に広がるノートに目をやりながら、ググったり、思考を広げたり固めたり、メモタスクを片付けていると———あるものが目に入った。

キムラ
 「キムラ…………?」

 ノートには殴り書きで「キムラ」と記されていた。

 「キムラ…………キムラってなんだろう?」

 と、真剣に数分、過去の映像(殴り書きをしている時の様子)をセルフフラッシュバックしていたら、なんとか思い出すことに成功した。

 「…………あっ『払う』 だ」

 自分の字の汚さへのちょっとした失望感と、なのに思い出せたというスッキリ感で感情が往復式に揺れ動く。
 そのせいなのかなんなのか、解決したハズなのに、なんだか全然スッキリしていない。

 ここで———
 また新たな疑問(問題)が一つ、生じていることに気付く。

 「えーと…………なにを払うの?」

 ようやく『キムラ』の意味を解明したと思ったのに、俺氏としたことが、今度は「なにを払うのか」を思い出せないでいる。

 「SIM代じゃない、ホテル代じゃない、支払い用の口座に入金……じゃない。…………クソッ……」

 だめだ、全く思い出せない。
 ここでひとまず根本を見直してみることにした。

考える
 「果てして『キムラ』は、本当に『払う』なのか? 偶然に文字が似ているというだけで、実はぜんぜん違うのではないか?」

 そう、解決した「つもりでいた」というだけで、端から解決なんてしていなかった。

 『キムラ』の文字を睨みつけながら考えに考えまくった結果、ある答えにたどり着いた。

 「これは『払う』じゃない…………『祓う』だ!!」
お祓い
『祓う』とは……

神に祈って、罪やけがれ・災いなどを除き去る。「心身を清めてけがれを―・う」

という意味である。
引用:goo辞書(https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E7%A5%93%E3%81%86/

 ———祓う。これは一理ある。
 なぜなら、俺氏は日ごろ、わからない漢字の文字列は、適当に思いつくままの文字列で書く癖があるからだ。
 だから『祓う』を『払う』と書いたのかもしれない。

 「そうだ……そうだよ! これだ! これならしっくりくるぞ!」
 「? いやでも……何を祓えばいいんだろう……?」
 「(お祓いを受けたくなるほど)不運を感じた記憶はないのだが」
 「しかし、祓う(払う)と書いているのだから、きっと祓いたい何かがあるのだろう」
 「ん~…………」

 結局なにを祓えばいいのか思い出せない。もっと細かくメモを取っておけばよかった。なぜメモを取らなかったのか。自分が憎い。そんな自分が憎い。

ひらめき
 「…………あっ」

 憎しみを苦く噛みしめていると、あることに気がついた。

 「不運……べつに不吉なことがあったんじゃない。俺は過去に『憎しみ』を感じたんだ……! 俺はその憎しみを祓いたかったんだ……!!!!」
 「よくやった。よくやったぞ俺。よくぞ思い出してくれた」
 「でも、なにに憎しみを感じていたのだろう?…………いやこの際なんでもいい、とにかく憎しみを祓ってざわついた脳内を換気するんだ」
 「そうと決まれば、さっそく祓いにいこう!」

 そう意気込み、祓いにゆく決意を固めた。

 しかし———
 祓うといっても、いったいどこに、だれに祓ってもらえばいいのかわからない。
 「祓う人」がなんと通称されているのかもわからない。
 でも……すでに目的は明白。焦る心配はない。
 まずは、[祓う人 なんていう] からググってみよう———。

ぐぐった

 ググりにググった俺氏は、口コミで評判の良かったお祓いの専門家『キムラ』さんに依頼することにした。
 キムラさんはお祓いグランプリ準優勝に輝いた実績を持つ凄腕お祓い師らしい。

 さっそくそのキムラさんに連絡をしてみると、とある村の「神社」まで来てほしいとのこと。
 ということで———さっそく新幹線でその村へ行ってみることにした。

 その神社は、とある田舎の村にある。
 過去には奇妙な事件が幾度も起こり———現在、その村に近づく人間はあまりいないとのこと。
 噂ではあるが、その村は「奇村」と呼ばれている———。

新幹線

 ———無事、お祓いは成功した。

 よかったよかった。

 何に憎しみを感じていたかは未だにわからぬままではあるが、なんだか色々とスッキリした。
 いやぁ清々しいね。
 これでまたいつもの日常に戻ることができるんだ。

 奇村でキムラさんにお祓い代を払ってスッキリした俺氏は満足そうに新幹線でとことこ帰るのであった———。

※この物語は半分フィクションで半分ノンフィクションです

広告