石焼きイモを、追いかけて。

ざわめき 日記 & 小説

季節は冬。

気温マイナス3度。

目を細めてしまうほどに大量の、それも大きめの雪が降り乱れる。

そんな真冬の寒空の下。

俺たちは———走った。

石焼きイモを、追いかけて。

雪が険しい。これは明日積もるだろう。というか既に積もっているが。

そんな中、俺たちは、石焼き芋の車を追いかけている。

俺氏は短パン、サンダル、トレーナー。

妻氏はパジャマ、サンダル、ブロックテックパーカー。

「時は一刻を争う」と最低限の防寒対策を施し、慌てて家を飛び出した結果、このような格好になっていた。

マイナス3度。さすがに寒い。

なぜそこまで頑張るか。

家を飛び出る前、妻氏が言った。

「人生で一度も(石焼き芋を)食べたことがない」

まるで、初めて遊園地に来た子供のような目で石焼き芋の車がいるであろう方角を窓越しに見つめている。

ただし厳密にはどこに石焼き芋の車がいるのかはわからない。

止まっているのかも、走っているのかも、わからない。

音が途絶え、諦めかけていた時、またお決まりの

「いしや~~~きぃも~」

が聞こえてきた。

「今しかない!」

というのがキッカケだ。

妻氏は玄関から出た後、すぐさま廊下を走りだす。

まさか走るほどまでに石焼き芋を食べたいとは思っていなかったので少々驚いたが俺氏も勢い任せている状態なのでとりあえず妻氏の後を追う。

しかし———

外に出たはいいものの、寒い。

そして———

居ない。

大きく聞こえていたハズの、

「いしや~~~きぃも~」

が聞こえない。

マンションの周りを歩いてみるが気配を感じない。

幻だったのではないかというくらい外は静かだ。

かろうじて配送中のクロネコヤマトさんがセカセカと荷物をおろしているくらいで、静かな雪景色しかそこにはない。

「帰ろうか」とマンションのエントランスに向かおうとしたその瞬間、また、

「いしや~~~きぃも~」

が大きめに聞こえてきた。

近くではない。遠すぎることもない。

信号を渡った先の少し遠く。

「行ってみる?」

妻氏はかぶせ気味に早い「うん」を返す。

信号は赤だが、フライングしそうな勢いでまだかまだかと車が途切れるのを待つ。

そして———

青になった瞬間、妻氏、走り出す。

「……」

いったいどこからその情熱が湧いているんだ。

正直、俺氏は勢い任せで家を飛び出たことに後悔している。

だって、べつに焼き芋、食べたくないし……。

普段———

「焼き芋」なんてワードを全く発しないくせに。

「なに食べたい?」と聞いて「焼き芋」と答えことは一度もないくせに。

いったい、どこから湧き上がっているんだ、そのパワー。

しかも———

妻氏は今『ブルーデイ期間(生理)』だというのに。

今朝なんて「めまいがする」と、しゃがみ込む場面もあったではないか。

石焼き芋がもたらすパワーに困惑を隠せないよ。

室内と室外の温度差もなかなか激しいが、俺氏と妻氏の温度差もかなり激しい。

とまぁ、そんなことを思いながらも俺氏は、妻氏の後を追いつづける。

サンダルなので転ばないかなと冷や冷やしながら。

しかし、石焼き芋の車は見当たらない。

音の鳴る方へひたすら走っているが、どこなのかサッパリわからない。

ただただ俺たちは希望的観測に走りつづけているだけだ。

往復で15分ほど寒空の下を彷徨い続けたが、結局———

石焼き芋に会うことはできなかった。

本当に食べたかったのだろう。石焼き芋を。

妻氏はとても悲しそうだ。

ガッカリした様子の妻氏に同情心も芽生えるが、それと同じくらい「やっと帰れる」という嬉しさがこみ上げた。

帰ってきた瞬間、ストーブのきいた部屋に幸せを感じた。

ああ、そうだよ。

いいじゃないか。

我々には、あたたかい部屋が待っているのだから。

べつにわざわざ、さつまいもを焼いたもので暖をとらなくてもいいのだから。

さっきのは散歩だと思って忘れよう。

いい運動になったじゃないか。

うんうん。

そんな穏やかな気持ちになった。

———のは、

俺氏だけで、

帰って早々、

スマホ(Google)を起動し、

「石焼き芋 捕まえ方」

と勇ましく真剣にググる妻氏の姿を見て、俺氏は、

「あぁ……きっと石焼き芋に未練があるなんかの呪縛霊に憑依されているのだな……」

と思いながら、あたたかい紅茶をつくるのであった———。

以上、石焼き芋を追いかけた話でした。

それでは、しばしの別れ。

PS…

ビジネスモデルを考えた。

名付けて……

『石焼き芋いまどこアプリ』。

石焼き芋カー(石焼き芋の車)にGPSをつけて、アプリ内のMAPに今どこにいるかを知らせるやつ。

今どこにいるのかがわかれば、石焼き芋を買う人は間違いなく増える。

というのも———

石焼き芋の音が聞こえてきても、そこから着替えてお金をもって外へ行って石焼き芋カーのところへ行くまでに時間がかかってしまう。

だから、

(石焼き芋)食べたいけど、間に合わなそうだしー」

と諦めてしまう人も多いだろう。

だが近くに来た時にアプリから通知が来たら、状況を把握できる。

今まで諦めていた「石焼き芋食べたい勢」のフットワークが軽くなり、購買意欲をグンと上げてくれるので、売上も上がること間違いなし。

石焼き芋の残り個数をアプリ内で更新する機能をつけたり、あとは例えば、

「3丁目の、~~~~に10分くらいいます」

みたいなお知らせの更新も随時できるような機能があるといいかも。

どうか、石焼き芋屋さん、俺氏の妻氏のために、検討してください。

それでは、しばしの別れ。

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