鼻すすりパーカッション

随筆

 ラーメンを食べていて鼻水が出そうになった時、いますぐ鼻をかむか、鼻をすするだけに留めておくか、もしくはお構い無しに麺をすするか、迷う。
 さっさと潔く鼻をかみ鼻水を出してしまったほうがスッキリするし清々しい気持ちでラーメンを堪能できる。だからさっさと鼻水処理のタスクを済ませてしまえばいい。というのが理想で無難な鼻水解決法だろう。
 だがしかしそれは理想論であり、現実、そう簡単には解決しない。タダでは帰してくれない、それがラーメン中の鼻水だ。

 例えば、ラーメンをすすっている時、ラーメンを食うくらいなのだから当然腹は空いているわけで、食欲が激しく高騰しているし、脳みそは完全にラーメンだし、つまりはラーメンメンタル略してラーメンタルなわけですよ。そんな時に鼻水がやって来ようが知らんがなって話なわけですよ。
 もしランチタイムと夜しか営業していない中華飯店へ15時に行けば、椅子にあぐら座りしている亭主がスポーツ新聞を広げながら「あああごめんね休憩中! 次5時からだから!」とタメ口で怠そうに言ってくるだろう。
 それと同じで思いっきりラーメンを楽しんでいる最中に鼻水が急に来ても「えっなに、今? 今じゃなきゃ駄目?」となるのは当然であり、鼻をかむなんて蚊帳の外である。
 だから「鼻かめばいいじゃん」なんてのは理想論であり、それが出来たら最初から潔くかむのですよ、ええ。

 とはいえ、ずっと無視できる問題ではない、鼻水なので、無視を決め続ければそのうち鼻穴から鼻水が飛び出てくる。飛び出るだけではなくラーメンの汁に鼻水が混じってしまう。そうなってしまっては大変だ。汚くてもう食べれなくなってしまう。だから我々は鼻をすする。鼻水が落ちないよう鼻をすする。鼻すすりで麺すすりを中断するのです。

 だがしかし、この鼻すすりというのはそう何度も使える技ではない。ドラなクエやFなFで魔法を使う時にMPが必要なのと同じで鼻すすりにもMPが必要だ。
 鼻をすするのにも体力をつかう。口が麺やラーメン汁などで塞がっている状態で鼻水をすすらなきゃいけない。ただの鼻呼吸ではない。液体を逆流させなきゃいけない。それに最初の内は鼻水の流れはゆっくりだが、時が経てば経つほどに流れが激早になる。鼻すすりをした直後にまたすぐ鼻すすりをしなければいけないほどに早く、激流になる。そしてやりすぎれば段々と脳みそが少しぐらぐらして来るし、めまいに似た何かが起きることだってある。

 それだけではない。しつこい鼻すすりは他人に嫌われる。嫌われるというか、ウザがられる。それはそうだ。たまに来る「スゥ〜ッ」なら余裕で我慢できるが、しつこく連打で「スゥ〜ッ……スゥ〜ッ……スゥ〜ッ……スゥ〜ッ……スゥ〜ッスゥ〜ッ」と来られたらさすがにうざすぎるだろう。
 せっかくラーメンを楽しんでいるのになぜ他人の鼻水すすり音をBGMにして食べなければならないのか。まるで自分がすすっているラーメンが誰かの鼻水かのように感じて気持ち悪い。ラーメン屋においてのラーメン中のBGMは時代遅れのJPOPや地方のローカルラジオで十分なのだ。
 だから鼻すすりは何度も気軽に使える技ではない。ラーメン中の鼻水問題は自分だけの問題ではないし他人を巻き込む問題なので鼻水すすりに関しては注意して行う必要があり乱用は控えるべきだと心得ている。

 では鼻水すすりの適切な回数とタイミングについて話そうと思う。一体これは誰得な話なんだと突っ込まれるかもしれないが……静粛に。

 で、正直これに関してはケースバイケースなので厳密には決まっていない。あくまでも目安として話したいと思う。
 まず回数は不定。食べ終わるまでの間。必要に応じて。と言う感じで。はい。
 そしてタイミング。これに関しての結論はこうだ。

《鼻水が落ちてくることはないが油断すれば落ちてくる可能性もなくはないぞ》って時。

 この時が来るまでは鼻すすりをおこなってよい。そしてこの時が来た瞬間にティッシュを取り出し鼻をかめばよい。

 このタイミングであればしつこい話すすり連打で頭がクラクラする事はないし他人にウザがられる事もない。ティッシュの使用枚数も必要最低限で抑えられる。
 そしてこのタイミングであればラーメンに集中できる。最初から最後までラーメンと真剣に向き合える。
 もし鼻すすりせずにティッシュタイムを高頻度で作り出せばラーメンに集中できず食欲暴走状態中の食事が緊急停止されることによりストレス負荷がかかり場合によっては不完全燃焼になり、まさかの「ラーメンおかわり」や「ラーメンはしご」をするはめになってしまう恐れがある。まったく恐れ入りますな話だ。
 だからといってティッシュタイムを設けず鼻すすりオンリーな手段をとってしまってはそれはそれでラーメンに集中できない。もういま食ってるラーメンが鼻水なのかラーメン汁なのか鼻汁なのかラー水なのかわからなくなってくるだろう。

 ということで、ティッシュタイムも鼻すすりも適切なタイミングで行いたい。鼻水のプレッシャーを感じることなく、鼻すすりタスクに追われることなく、過剰鼻すすりにより鼻水を飲む事もなく、他人の目を気にせず、真剣にラーメンと向き合い、食欲とラーメン欲を満たしたい。そして鼻水とは上手く共存してゆきたい所存。

 PS… 箱ティッシュを《1席1個》で置いているラーメン屋まじ最高。