譲れないどんぐり
ぼくは、よく眠る。
さむいあいだは、とくにね。
そうだなあ、だいたい六ヶ月くらいかなあ。
もっとすごい友達もいるよ。おんなは七ヶ月も眠るからね。おまえはどのくらい眠る? ——へぇ毎日? 恵まれてんだな、おまえの世界は。
……あっ、でもさすがに六ヶ月ものあいだ、ずうっと眠ってるわけではないよ。そんなに眠ったら死んじゃうよ。
だいたい十日くらいかな。うん十日くらい。十日に一回はちゃんと起きるよ。まぁ、やることやったら、またすぐ眠るけどね。
起きて何をするかって? 食べるよ。お腹すいてるからね。食べなきゃ死んじゃうし。おまえだって食事はするだろう? ——そりゃそうだよなあ。それは地球常識だよな、きっと。
でもぼくは、十日ぶんを、一度にぜんぶ、たくさん食べる。
ちょっと苦しくたって平気。お腹にぶちこめエナジー。
たらふく食べて脂肪をつけなきゃ。
筋トレなんかしないよ。めんどくさいし。せっかく食べたのに。また食べなきゃいけないじゃん。エナジーはなるべく使いたくないの。ぼくは省エネモードでいたいのです。
脂肪ってのは便利でさ。眠ってるあいだ、勝手にエナジーにしてくれるんだ! すごいだろ?
脂肪には、熱を発する効果があってさ。だから、ぼくが何もせず、長いあいだ眠っていても、からだを暖めてくれるんだよ。ぼくが死なないように、助けてくれるんだよ。
——大丈夫。ぼくはおまえとちがって、眠っているあいだのエナジー消費量が、とっても少ないんだ。ためた脂肪は、ちょっとずつ使うからねえ。
だいたい百ぶんの一くらい。あたたかい時期と比べて、百ぶんの一くらいのエナジーしか使わないんだよねえ。
すごいだろ! へへ。
だから、十日間ずうっと眠っていても、まったく問題なし。さむくて死ぬことはないし、お腹がすいて死ぬこともない。
ぜんぶぜんぶ脂肪のおかげさ。死亡を脂肪で防ぐのさ。脂肪はほんとにすげえんだ。来世は脂肪で生きたいな。命を守れる、かっこいいじゃん。こんどは脂肪にしてくださいな。来世は脂肪を志望します、神様!
——え? おしっこ? 漏らさないよ?
だって眠ってる間は、したくならないし。
おしっこは眠りから覚めたときに、したくなったらするってかんじ。
そうだよ、ぼくのからだはすごいんだ。眠ってるあいだ、代謝もガクッと下がるんだ。
だから眠ってるときに、おしっこをする必要がないんだよねえ。そういう仕組みなんだよ、生まれつき。
だから、お漏らしなんてしないよ! うんこも漏らさない! こどもじゃねえんだ!
——あ、ちなみに、目が覚めて《《すぐ》》に何かを食べるわけじゃないよ。頭がまわらなくて落ち着かないからね。
眠った後、まず最初にやることは、やっぱ睡眠だよ。睡眠。やっぱ寝ないと始まらないよ。始まらない。
——えっ? 目覚めたばっかなのにまた寝るのかよ、って? そりゃそうさ。ぼくは眠っていただけで、けっして「寝て」はいないからね。
——うぅん、なんて言ったらいいのかな。目的が違うって言えばいいのかな。とりあえずね『寝る』と『眠る』は別物なんだよね。
——さむい時期はさ、筋肉が落ちちゃって、まともに動きまわれないんだ。そういう体質。あたたかい時期になると筋肉は回復するんだけど。そういう体質。
で、外はとてもさむいでしょ。それに、いろんな奴がいるから危険でしょ。そのうえ、食べ物がぜんぜん見つからないんだ。ほんとに。ぜんぜん。効率がわるいよね。エナジー対効果が合わなすぎる。
だから、さむい時期は省エネモードになって、長いあいだ、六ヶ月くらいは眠ることにしてるんだあ。
——だけど、その眠っているあいだって「寝る」ことはできないんだ。
「寝る」ってのはさ、つまり『情報の整理』ってことでしょ。
ちゃんと情報は整理しないと、頭の中が忙しくなっちゃう。散らかっちゃう。パンクしちゃう。とても危険だよ。まともな思考ができないし。どうしたらいいのか、わからなくなっちゃうし。正しい判断ができないと事故にあう確率も高くなる。
——そう! ぱそこんのメモリみたいな感じで、再起動しなきゃ、散らかっちゃう。動きはわるくなるし、エナジーもむだに使ってしまう。
だけど、眠っているあいだには、情報の整理が行われない。
だから、ぼくは十日に一度ちゃんと寝る。
十日に一度、眠りから覚めたらまずは寝る。
これが、ぼくらの世界の『寝る』と『眠る』のちがいだよ。
——ほら、見て? どんぐりがたくさんあるだろ。動けるうちに、いっぱい集めたんだ。十キロくらいはある。たぶん。すごいだろ。——え? あげないよ。自分でとってこい。だいじな物なんだぞ。ぼくの脂肪だぞ。——なに、交換? いいだろう。おまえは何をくれるの? ——そ、それは、ビタミンDさぷり! 知っているぞ! おまえの世界のものだな! ——おまえ、わかってるじゃん〜。ぼくらは、さむい時期は憂鬱になりやすいから、そういうのがあると嬉しいんだ。——いいのか? じゃあ、どんぐり一個と交換だ! ははっは。
——何故ぱそこんを知ってるか、って? ははっは。ぼくをそのへんのシマリスと一緒にしてもらっては困るなあ。ぼくは好奇心旺盛で、けっこう物知りなんだよ? あたたかい時期はフットワークが軽いからね。いろんなところへ旅に出てるし、おまえの世界もよく行くぜ(笑)。
——じゃあ、そろそろ眠るよ。
また話そうよ。旅に出てなければ、ぼくはいつでもここにいるから。こんどはおまえの話も聞かせてほしいな。冬眠中は、あまり来ないでほしいけど。じゃ。またね。おやすみ。