落ち着けない人
筋トレ後。窓を開け、網戸越しに見る外の風景や秋の香りを楽しみながら飲むホエイプロテイン。メロン味。
もし自分が虫に耐性があり、虫が家に入ってきてもビクともしない性格ならば網戸モザイクフィルターなどは取払い正しく《窓全開!》にしておきたいところだが、それは無理なので自重。
秋の枯葉の香りを風が運んでくる。落ち着く。爽快。目も鼻も清々しい。だからメロンプロテインがもっと美味しく際立ち、舌も幸せだ。
「落ち着きたいから」とわざわざこのようなシチュエーションを設けているのだが、にもかかわらずプロテインを口に含みながら虫や埃のチェックをしてしまう自分がいる。
網戸、窓、手すり、窓際の床などに虫がいないか、ついでに埃や髪の毛が落ちてないかのチェックをしてしまう。
黙って外の世界を楽しみながらぼーっとしていればいいのに。そのように黄昏ながら落ち着きたいからテーブルではなくわざわざ窓際で窓をあけてこうして座っているのに、自らの意思で落ち着こうとしない自分がいる。
黒いものを見つけては「ハッ!」とし、「なんだ毛糸か」と安堵。それの繰り返し。
稀に小蝿を見つけて発狂する。虫の捕獲は妻の担当。我が輩は携わらないのがデフォ。それくらい苦手だ。虫や爬虫類……というか生物のほとんどが苦手だ。蟻や小蝿でさえも怖い。UFCヘビー級チャンピオンよりもヤクザの軍団よりも数億倍、怖い、虫のほうが。蜘蛛とかゲジゲジとかヘビとかそのへんが出たら涙が止まらずガタガタ歯が震え失禁するだろう。それくらい苦手だ。
虫チェックをしつつ、外の風景に黄昏つつ、筋トレでかいた汗をゆっくりと冷やす。秋の自然、運動による発汗からくる達成感、メロン味を嗜む。
ぼけーっとしているかと思えば、虫のチェック。ぼけーっとしているかと思えば、虫のチェック。の繰り返し。
なんにも難しいことは考えず、面倒なことも考えず、ぼけーっとし続ける事がいま自分が思う理想のリラックスモード。なので虫チェックをしている時点で理想的とはいえないこの状況。もちろん満足はしていない。ただ、不満足でもない。もし虫がいれば不満足ではあるが、基本的にはいないことのほうが多い。落ち着くと落ち着かないを繰り返しているがトータル的には落ち着いている。
「虫が原因で落ち着かないなら窓を開けなきゃいいじゃん」と思うかもしれないが、窓を開けなくても僅かな隙間から侵入してくるのが小蝿という生物だ。開けていようが開けていなかろうが、入る時は入るし、入らない時は入らない。網戸をして窓を開けている状態と、網戸どころか完全に窓を閉め切っている状態を比べ、小蝿の侵入率は体感的には変わらない。むしろ中途半端に窓を開けず《換気扇だけを回す》みたいな換気方法をしたほうが気圧の急変化により、外の窓際にいた小蝿が一気に吸い寄せられ、完全に閉め切っていたはずの窓の《ほんの僅かな隙間》から事故的に侵入成功してしまう。そう考えると、やはり、網戸を用いた換気方法のほうが無難だ。
もし、窓を開けず、換気扇も回さず、ただただ霞窓やAmazonで買って貼り付けた霞窓シートの二重モザイクがかかった北海道ではお馴染みの『二重窓』を見つめながらプロテインを飲んだら、あまり癒されはしないだろうし楽しくもないだろう。そこは室内であり、窓であり、モザイクがかかっているから外の世界など見えやしない。そして、結局は窓側であるということで、二重窓そのものや二重窓手前の床などを対象に虫チェックをするのだろうから、それならば潔く窓を開け、秋の自然を堪能しながら『黄昏プロテイン』を決めたいところだ。