紙袋って美味しいね。
ハンバーガー屋さん『マクドナルド』にある商品は、なにを食べても「マック!」みたいな味がする。
ポテトを食べてもナゲットを食べてもバーガーを食べても「マック!」みたいな味がする。
食材、ソース、調味料などは別物なのに、なぜかどれも「マック!」みたいな味がする。
不思議だ。だけどわかる。きっとこれは、マックで使っている『油』が、そうさせている。
おそらく、どの商品にも、同じ油を使っている。焼きにも揚げにも同じ油を使っている。
だから、どれを食べても「マック!」みたいな味がするんだと思う。
根拠はない。根拠はないのかよ。根拠はないけども、どれを食べても「マック!」みたいな味がするんだから、そう考えても不思議ではないでしょ。
つまり——マックにある、すべての商品は『あぶらあじ』と言っても言い過ぎではない。
•マックフライポテト(あぶらあじ)
•チキンマックナゲット(あぶらあじ)
•チーズバーガー(あぶらあじ)
•てりやきマックバーガー(あぶらあじ)
はい、すべてが、あぶらあじ。
だから、われわれが、
「あっ、マック食べたい」
と思う瞬間、それは、マックのポテトを食べたいわけではなくナゲットを食べたいわけでもない。
そう、厳密にいうと、それは、マックではなく、
「あっ、マックの油を食べたい」
なのかもしれない。
マックのあぶらあじを思い出して、マックの油を食べたくなっているのだと思う。
美味しくて中毒性のあるマックの油。
麻薬と言うべきか麻油と言うべきか——。
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——と、ずっと思っていた。
たしかに、そう思っていた。ずっと。
でも、最近、気づいてしまった。わかってしまった。わかってしまったんだよ。わかってしまってしまったんだよ。
われわれが、
「あっ、マック食べたい」
と思う瞬間、まず先に思い浮かべるのは、マックの「あぶらあじ」ではない。マックの油なんかではないんだ。
そう、われわれが、
「あっ、マック食べたい」
と思う瞬間、まず先に思い浮かべるのは、マックの『匂い』であることを私は気づいてしまったんだ。
匂いというべきか、香りというべきかは迷うところだが、今ここでは『匂い』ということにしておこう。
で、その匂いというのは油のことでもあるんだけど、なんだけど、油の匂い《《だけ》》ではないんだよね。
もちろん、食材の匂いも、わずかにする。
でも、そうじゃない。それだけじゃない。そんな当たり前な、純粋な、素直なことを言いたいんじゃない。
外を歩いていて、マックのことなんか何も考えていなかったにも関わらず、脳みその奥底にある引き出しから、
「あっ、マック食べたい」
を一瞬で呼び寄せる『あの匂い』は油や食材だけでは、ちょっと弱い。足りない。
『あの匂い』の正体は、マックのコンセプトとも言えるだろう。
そう——われわれが、
「あっ、マック食べたい」
と思う瞬間、いちばん最初に思い出すのは…………『紙袋』。
紙。紙の袋。紙袋。
あの茶色い。クシャクシャの。油が滲んでいたり、いなかったりする。あの茶色い紙袋。
外を歩いていて、マックのことなんか何も考えていなかったにも関わらず、脳みその奥底にある引き出しから、
「あっ、マック食べたい」
を一瞬で呼び寄せる、『あの匂い』の正体は、『紙袋の匂い』だった。
われわれの食欲、マック欲を暴走させるのは紙袋の匂いが原因。厳密にいうと『紙袋ごしに伝わる油の匂い』これだ。これだ!
紙袋というフィルターを、マックの油が通過することにより、ただの油の匂いが、紙油の匂いに変わる。
そして、紙油の匂いが『美味しそうな匂い』へと変換されてゆくのです。
マックは、どちらかといえば、からだによくない食べ物にカテゴライズされている。そういう風潮がある。栄養面もそうだが、やっぱ太るし。それもあり、食べると罪悪感に襲われることもある。
だから日頃あまり食べないようにしている人も少なくはないだろう。
だが、そんな決意、心掛け、健康意識などを全て一瞬で帳消しにして来やがるのが、紙油。マックの紙袋ごしの油の匂い。
たまごっちでトイレの水を流した時に一瞬でうんこが綺麗さっぱり無くなるあの感じ。
あの感じで我々の理性を一瞬で奪ってきやがるのです。われわれの「あっ、マック食べたい」を激しく促進させるのです。
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もし——マックで買った食べ物すべてがプラ容器に入れられてたら、われわれがマックへ行く回数は激減する気がする。
紙袋ではなく、プラレジ袋だったら。この場合もマックへ行く回数は激減するだろう。
食と言うのは、匂い(香り)もセットだからね。
われわれがいつも美味しいと思って食べているマックは、紙袋ごしの油の匂い。紙油。
この世で最も売れた飲食店の商品は、マクドナルドのハンバーガーらしい。
つまりこれは、われわれ人類は、紙袋が大好きということだろう。あぁ、そうにちがいない。だって世界で1番売れたのだから、それは紙袋が美味しいということでしょう。
ということで——これからも紙袋をおかずにマックを食べていきたいと思う。