白湯の寄り道
ぜんぶ吐いた。
口に含んだ白湯が熱すぎて、ぜんぶ吐いた。まだ熱い。口内すべてがまだ熱い。ぜんぶ吐き出したのに。今も、ずっと、まだ熱い。至る所に痛みを感じる。
沸騰してすぐのものを飲んだわけではない。マグカップに注いでから30分くらいは経っていたし。ふーふーしなくとも飲める程の、ちょうどよく暖かい白湯に仕上がっていた。ハズだった。マウスピース。マウスピースだ。マウスピースがあるからだ。マウスピースをしているからだ。全ての原因は、そう、マウスピースなんです。
マウスピースが居るせいで口に含んだ白湯を上手いこと飲み込めない。上手いことスムーズに喉の方へと進んでいかない。というか白湯は口に入ってすぐに寄り道を始めやがった。白湯は喉の方へと行かずに、マウスピースの表面、マウスピースにある小さな排水穴、歯とマウスピースの間、粘膜とマウスピースの間、舌、舌の溝、舌の下、舌とマウスピースの間、あらゆる隙間に寄り道して無断に滞留している。勢い任せて飲み込もうにも渋滞していて少しだって喉の方へは行ってくれない。白湯の大渋滞。分裂した白湯がスクランブルして大渋滞を起こしている。
6秒くらいは頑張った。だって、一度口に含んだ白湯を、液体を、またマグカップに戻すなんて嫌だし、その場で吐き出すのも嫌だし、飲んでしまえば解決すると思ったから。でも無理だった。無理。絶対に飲めない。マウスピースが居なければゆっくりと飲み込む事ができた。だけど居る。マウスピースは居る。飲めない。絶対に飲めない。そして吐き出した。その場で。すべて。ルームウェアに。おれのもこもこのルームウェアの上に。吐いた。白湯。ルームウェアは白湯に塗れている。塗れたところはもこもこじゃなくなっている。
まだ熱い。口内すべてがまだ熱い。ぜんぶ吐き出したのに。今も、ずっと、まだ熱い。至る所に痛みを感じる。おそらく火傷をしているだろう。マウスピースは熱で僅かに消毒されたのか。わからない。どうでもいい。毒を消す事が毒になってしまっては意味がない。無理して結果オーライに持っていかなくていい。気休め。気休まらない。熱い。ヒリヒリ。はぁ。もう白湯なんて飲まない。いや、もうマウスピースしながら白湯は飲まない。そう、誓った。
白湯に塗れたルームウェアは既にひんやりと冷たくなっていた。