物価とブタメン

随筆

 今から約17年前。中学2年生の頃。北海道、秋夜のコンビニ。サークルKサンクス。100円のカップヌードルを買うか50円のブタメンを2個買うかで悩んだ。挙句、2個食った方が気持ち的には《得》な気がしてブタメンを選択。
 プラ剥がしフタ捲り湯を注ぐ。それを2回。
 剥がしたプラをゴミ箱に捨てたいが静電気でくっつき中々離れないのは醍醐味だし、ポットのお湯が97度でカップラーメンにしてはちょいぬるなのもそれもまた醍醐味。
 《濃いめ硬め》が好きで、線より1cmくらい下のところで注ぐのをやめたいが、質より量ということで、やや線を越す。スープをすこし多く飲めるからだ。
 丁寧に湯を注ぎ、添付のフォークをフタの手前にぶっさす。するとフォークの隙間が容器に挟まり蓋がしっかり閉まるという手法。大事そうにブタメンを両手に持ち、自動ドアをくぐり抜ける。「やっぱ100度にしてから入れればよかった」と思いながら。

 運動部なら即家に帰り《メシ》が可能だが、帰宅部の夜は長い。平気で0時過ぎまで夜の町を徘徊する。そのため19時頃に腹が減り家に帰り《メシ》という選択肢はない。一旦サンクスで腹を満たす必要がある。もちろん食べ盛りの思春期成長期中学生の空腹は満タンには満たされないが、北海道の秋夜は寒い。暖かいラーメンを胃に入れるだけでだいぶ色々紛れる。
 だからサンクスの外、ガラス窓付近でたむろして食うブタメンは最高に美味い。青春の味とも言える。

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 2022年。セブンイレブンのお菓子コーナーに並ぶブタメン(87円)を発見し驚愕。
「……え87円?!?!」
 いつの間にこんな値上げをしていた、と物価上昇を痛感したのと同時に「じゃあもう2個食いできないじゃん! ブタメン2個買うよりカップヌードル1個買った方がぜんぜん安いじゃん!」という事実にショックを受けた。が、よくよく考えれば時が進んでいるのだから日清カップヌードルも値上げされている。場所によっては200円をこえる。

 なので物価上昇が続くこの日本国において、まだこの[カップヌードル or ブタメン2個]という選択肢、又の名を[青春の2個食い〜外で食うと美味えんだよ〜]は現役的に残っている。この事実には一先ず安心した我が輩であった。
 ブタメン2個食いすら許されない世の中なんて息苦しいにもほどがある。ポイズンとまではいかないが、そんな世の中は嫌だ。現状この世の中はポイズンではあるが、昔ほどポイズンでもない。言いたいことは言いたいしブタメンは2個食いたい。そんな世の中でありたい。

 ポイズンはさておき、何故か安心していた我が輩は「いやべつにこれ安心できる話ではねーぞ」と気づく。何故なら実際はどちらも値上げなので、以前のような感覚で2個買いとかしていれば、そのぶん経済的ダメージは積み重なるので、つまりはただの損。
 そりゃ中2の自分よりは圧倒的に金はあるが、それとこれはあれであれだ。とにかく値上げ、素直に安易に安心している場合ではない。

 現在でもカップヌードルと比較した場合、2個食いは成立するが、根本的な話、べつに比較する必要はもうない。ブタメンが食べたければ食べればいいけれど、カップヌードルが食べたくて量が足りなそうなら『カップヌードルBIG』を食べればいいだけの話であり、もしくは[カップヌードル+おにぎり]とか[ブタメン+弁当]とかもできる。ていうか松屋でもいい。もう我が輩は中学2年生ではないのだから。2個食いにこだわる必要もない。

 よくよく考えたらもう何年もブタメンは食べていないし、時々の時々、ほんとたまに食べたくはなっていたが、さすがにもうわざわざ2個食いしたいとまでは思わない。
 ましてやコンビニで小腹を満たすためにブタメン2個を開封して2個ともお湯をそそぎ両手にブタメン姿でコンビニから出てゆく自信もない。恥ずかしいというのもあるし、自動ドアじゃなかったら中々にハードルが高い。場所によってはセルフ自動ドアみたいなやつなので1回触らなきゃいけなかったりもするから。その1回触る時にスープの波が荒れ、手にかかったら大変だ。そんなモチベ……《ブタメンタル》は備えていない。
 知らぬ内に、気づけば我が輩からブタメン欲は蒸発しきっていた。時間をかけて、ゆっくりと。まるで、加湿器のタンクに入れた満タンの水がコンセントに繋いでないにもかかわらず《からっから》に蒸発していた時のように、ゆっくりと、ゆっくりと、失くなってしまったようだ。

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 ブタメン2個食いといえば、数年前に『ブタメン BIG』というカップヌードルのBIGサイズくらいのブタメンが発売された。
「2個食いどころか3個食いくらいはあるんじゃねえか!?」と胸を高鳴らせソッコー買ってソッコー帰ってソッコー食べた。
 が、いざ食べてみると「…………普通……」という感想であった。
「2個食いは許されていたが3個食いなど金持ちのすることだ」とブタメンをたらふく食べられることに夢(ロマン)を抱いていた中学生時代。そんな中学生時代の我が輩の思いが未来に繋がり今ようやく叶えられたというのに……何故なのか……そこまで美味しく感じない。
 いや、美味しくなくはない。美味しいには美味しいのだが、昔々の青春の記憶が期待感を上げに上げ、現実とのギャップに「…………普通……」を生んでしまったみたいだ。

 BIGタイプで味そのものが変わったのか、それとも小さいからこそ良かったのか? 小さいからこそ味や旨みが凝縮されていた美味しかったけど、量が増えると薄く感じてあまり美味しく感じなったのか? お湯の量は少なめにしたけど、もっと少なくする必要があるのか? いやそんなまわりくどいことはしないハズだ。
 仕様変更なのかどうか真偽はわからぬが、この現象はラーメン屋でもたびたび起きる。
 並盛りを頼んだ時よりも大盛りを頼んだ時の方が味が薄く感じて比較的美味しくなく感じる。これは多くのラーメン屋でそう感じてきた。なのであながち間違った考えではないと個人的には思っている。
 でももしかしたら舌(脳みそ)が変わったのかもしれない。自分の嗜好、価値観の変化により、ブタメンそのものを欲さなくなってしまったのかもしれない。
 もしこのブタメンBIGを中学生時代に食べていたら感動していたかもしれない。しかしこのブタメンBIG実際には3個分も入っていない。2.5個分あるかないかぐらいの量だと思われるが、値段に関してはブタメン3個分よりも高い。
 だから仮にBIGが中学生時代にあったとしても絶対に買っていなかっただろう。

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 特にこれといって強く何かを主張したいわけではない。とにかく言えることは「物価が上昇したなぁ〜」だ。かなり普通でつまらない感想であることは承知だが、この《ブタメン値上げ》という問題がもし中学生時代にドンピシャに来ていたらかなり困っていたと思うし、気楽にコンビニで何かを買うこともなかったかもしれないし、帰宅部としての活動も続けられなかったと思う。いわゆるヤンキー殺し、またはマイルドヤンキー殺しな話。学生の夜間徘徊組にとって物価上昇というのは死活問題だ。

 だがしかし、最近、喜ばしい光景を目の当たりにした。ダイソーへ行った時の話だが、ブタメンが売られていて、なんと2個で108円……!! ということは1個54円くらいで買える。セブンイレブンで買うと割高だが、ダイソーで買えば《昔の値段》で買えるのだから喜ばしい。素晴らしきタイムスリップ。やはりまだまだ《ブタメン2個食い》は現役だ。