ネガティヴの取り立て

随筆

 朝はなにも考えない。考えちゃいけない。朝は最もネガティヴな感情に陥りやすい時だから。
 厳密に言うと、それは朝じゃない。起床してすぐの寝ぼけている時のことを言っている。

 眠く、重く、空腹。
 渇き、乾き、嘔吐き。
 目に、めやに、嫌に。
 頭痛、腰痛、が普通。

 昔から起きるのは苦手。脳みそのセットアップも遅い。一日中継続様々事思考過。そのせいで八時間の睡眠では情報の整理が終わらないのかもしれない。もしくは今日が明日になったという現実にテンションがついていけないのかもしれない。四次会が終わった後にまた一次会が始まるみたいな感覚なのかもしれない。ちがう。単純に眠いからだ。起きたくない。何もせず暖かい布団に包まり続けたい。このまま布団に溶け混ざり、あわよくば布団になりたい。布団として生涯を終えたい。それらの欲が大きく育ったことが起きれない原因なのかもしれない。

 寝ぼけた状態でまともな思考はできない。なにか時間を消費し考えないといけない問題があったとしても碌に考えはまとまらない。ていうかパフォーマンスの低い寝ぼけ時にわざわざ真面目に考えなきゃいけないほど大事なことって生きてる上ではほとんどない。
 どうせいい案は出ない。いい答えも出ない。出ないなら意味がない。考えるだけ無駄。大人しく寝ぼけ終わるのをぼーっと待つ。うーん。1時間くらい? ぼーっとしてればいい。はい、私は、ぼーっとするために生まれてきたんです、って。それくらいに開き直ってぼーっとすればいいんです。

 考えない。悩まない。決断しない。落ち込まない。怒らない。悲しまない。思い出さない。
《思い出す》は厄介。要注意な習性。
 われわれ人間は、コトの大小関係なく、何かしらの何かに追い込まれた時、何かしらの逃げ道を探そうとする。
 心に余裕が無い時、何かを否定することで、自分を肯定しようとする。保とうとする。
 小学生の時に流行った『呪いゲーム』かのようにネガティヴを何かになすりつけようとする。
 ネガティヴな記憶を引き出し、ネガティヴな原因《だれか》をやっつけたり。記憶の中でネガティヴを捏造して都合よく創作してみたり。
 脳みそが正常な時、ネガティヴじゃない時にはわざわざ考えないようなネガティヴな事をなぜか考えてしまうし、わざわざ引き出さなくていいような嫌な過去をなぜか繰り返し脳内再放送してしまう。
 ネガティヴの連鎖でネガティヴがネガティヴでネガティヴになる。
 それらには特に意味を持たない。無駄な行為なわけだが、きっと気が済むのだろう。気を悪くしながら、気を済ませようとしているのだろう。

 ぼーっと飲食をして、ぼーっと口内を清潔にして、ぼーっとシャワーを浴びる。無心。無心。無心でいなきゃ。まだ朝なのに、一気に消耗してしまう。
 シャワーを浴びながらネガティヴなことを考えているようでは、スタートダッシュが決まらない。スタート時点で転けていては、一日がまともに始まらない。シャワーを浴びているのかネガティヴを浴びているのかわからない。

 だから。
 できること。機械的に。ぼーっと。やる。
 真面目に。ならない。自分を。苦しめない。
 なんも。考えない。無心で。いる。
 ネガティヴ。祓う。ピッと。ばいばい。
 おしまい。