「かっこいい」が変わるとき。

随筆

 小学生のおれ。足が速いと、かっこいい。とび箱6だん飛べると、かっこいい。ボールを投げるスピードが速いと、かっこいい。というか運動神経が良いとなんでも、かっこいい。つうしんぼに「C」が付くと、かっこいい。J-POPにくわしい人は、かっこいい。バトルえんぴつやキラキラのペンを持っていて且つドクターグリップを持っていると、かっこいい。雨の日に傘をささずに濡れた髪で登校するのが、かっこいい。姿勢良く立つ姿は恥ずかしい。仁王立ちは、かっこわるい。片足を≪がくん≫として怠そうに立つのが、かっこいい。

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 中学生。悪いのが、かっこいい。不良が、かっこいい。昭和ヤンキーは、ダサい。HIPHOPは、かっこいい。馬鹿で阿呆っぽい事をするのが、かっこいい。真面目に授業を受けないのが、かっこいい。校則をとことん破るのが、かっこいい。タバコを制服の胸ポケットに入れてチラ見させたり、授業中にタバコを吸ったり、カッターを持ち歩いていたり、音楽室をバリケードしたり、雪が積もった日は教室の窓から外へダイブしたり、パンツが見えそうになるまで腰パンをしたり、歩道橋をチャリに乗ったまま全速力で降りたり、他人ん家の窓に石やどんぐりを当てて知らんぷりするのが、かっこいい。下ネタに詳しい人は、かっこいい……というか天才?

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 高校生。悪いのがかっこわるいと思い始めた。リスクのある行動は以前ほどあまり取らなくなった。脳みそが成長してきて、まあまあ理屈で話すようになった。そのせいで教師が少しでも非合理的なことを言うとすぐにしつこくいちいち反論するようになった。感情的になる事が多かったため、乱暴な言葉で論破をしたり、しかもいつでも殴りかかるようなスタンスでいた。だから関係は悪かった。職員室に敵が多かった。自分のなかでは不良から卒業してわりと真面目になっていたハズだったが、周りから見たらまだ不良だったのかもしれない。自分はただ理不尽と戦っているだけなのに。
 この頃には本気で成績とかどうでもいいと思っていた。これには昔から勘づいていた。自分にとっては無意味だし。だから学力テストで高い点数を取るという自己満行為に興味が無かった。そこにリソースをあてるくらいなら他の事をしたかった。
 ROCKは、かっこいい。パソコンやインターネットに詳しい人は、かっこいい。アニメや漫画に詳しい人は、かっこいい。ベースを自由自在にあやつっている人は、かっこいい。面白い人は、かっこいい。ボキャブラリーが豊富な人は、かっこいい。独特と言われる個性的な、いわゆる《《変な人》》が、かっこいい。

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 卒業後。18歳おわり頃から21歳くらい。さらに「変な人」を目指すようになった。変わってる人が、かっこいい。サイコパス的な人に強く憧れを持った。サイコパスに引いたり共感できずついて行けない人はセンスが無いしつまらない奴だなと見下していた。当たり障りのない主張や、ありきたりなセンスに嫌悪を感じる様になった。とにかく可笑しな人をリスペクトしていた。「変だよね」って言われるのが嬉しかった。褒められていると思っていた。

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 22歳くらい。「仕事ができる人」がかっこいいと思い始めた。社会人っぽい、いわゆるロボットみたいな人が、かっこいい。その上に位置する役職を持ったおじさんはもっと、かっこいい。営業できる人、かっこいい。営業トークがすらすら出てくると、かっこいい。飛び込む事に怖気つかない人、かっこいい。真面目で我慢ができる、根性と忍耐力のある人は、かっこいい。姿勢が良いと、かっこいい。バッグ片手ぶら下げ持ち、かっこいい。 YESマンが、かっこいい。いつ何時でも姿勢の低い人、かっこいい。おじさんっぽい話し方が、かっこいい。堂々と威張る姿が、かっこいい。
 理不尽な事に理不尽だと気づけない、完全に思考停止していて、世の悪い風潮に洗脳されていて、何の価値もない単なる奴隷として生きていた。それが正義だと勘違いし、青臭く、泥臭く生きていた。

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 25歳くらい。自分にとってのターニングポイントを見つけた。大それた事ではないが、ビビビと色々な気づきを得られるようになった。これまで脳裏にあったモヤモヤの正体がどんどんわかるようになってきた。物事の本質をわかるようになり、自分の事を深く分析できるようになった。そして愚かさを痛感した。自分は単なる奴隷ロボットだったのに、それがダメな事だと気づけていなかった。つまらない人生を作ってるのは自分自身だと気づいた。
 それからはサラリーマンとかがカッコ悪いと思い始めた。気持ち悪いとさえ思った。好きでもない仕事のために毎日通勤して馬鹿みたい。サラリーマンとかアルバイターとかそういう人を見下すようになった。自分も見下されるような階級にいるくせに他人を強く見下すようになった。一刻も早く9割くらいの底辺ロボット階級から抜け出したいと思った。階級は上がらなくとも、せめて異なるステージに行きたいと思った。
 常識に囚われない事が、かっこいい。自分の言葉で話す人が、かっこいい。同調圧力に負けない人が、かっこいい。本質を理解した合理的な言動をとる人が、かっこいい。ホリエモンが、かっこいい。大金持ちが、かっこいい。トップの人間は、かっこいい。

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 27歳くらい。何もやりたくない。何がかっこいいのかもわからなくない。何もかっこよくない。とりあえず、やりたくないことを、少しずつやめていった。就職もアルバイトもやめていった。フリーランス、個人事業主になった。
 そしたら奴隷時代の6〜8倍くらいは稼げるようになった。少しずつ心身が落ち着いてきた。しかし迷走。これから何をすればいいのかわからない。自分は何に憧れているのか。何が楽しい。目的はなんだ。何もない。よくわからないから、とりあえずやりたくない事を止めれるようにシフトしていった。しっかりとした実績のあるインフルエンサーが、かっこいい。ノマドが、かっこいい。海外移住が、かっこいい。日本、かっこわるい。FIRE、かっこいい。

 何故だろう。ほとんどのことにどうでもいいと思うようになってきた。誰になんと思われようがどうでもいい。自分がどうなろうがどうでもいい。自分は死ぬまで適当に暇を潰します。誰もおれの邪魔をしないでください。現実逃避が心地良く心地悪かった。人生そんなもんだ。幻想を抱くな。過大するな。ひろゆきが、かっこいい。落合陽一が、かっこいい。

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 30歳になり、色々と落ち着いてきた。色々な問題が片付いてきた。まだ問題はいくつかは残っているが、そのうち片付くので大丈夫としよう。相変わらず心身ともに不安定だが、それでも以前と比べて人生を楽しめている。自分を詳細に知る事が出来た。だから自分を操る事が前よりも楽になった。
 夢を叶えた人、大きな目標を実現した人に、かっこいいと思うようになった。オリンピックで金メダル、かっこいい。格闘技でチャンピオンベルト、かっこいい。何かの絵でコンテスト最優秀賞、かっこいい。自分もそういう人になりたいと強く思った。
 なってどうするのかって言われれば、わからない。どうなるかなんて未来にならなきゃわからない。どうもならないかもしれないし、そこからまた何かが始まるかもしれないし。でも、それでいい。先のことなんて、どうだっていい。1つの目標、人生の目標として、何かを成し遂げたい。ゲームとして。ゲーム感覚で。何か1つに全Betするのも悪い生き方ではない。そう思った。失敗してもいい。人生を楽しむにはコレしかない。何もせずになんとなくで生きてストレス溜めまくって病気になったりそのままぼけてうんこ漏らしてオムツするようになって煙たがられながら死んでいくなんて嫌だ。何が楽しい。楽しくない。面白くない。
 だからおれは芥川賞を受賞したい。純文学で、作家として、良い結果を残したい。作家としての自分の名前を世界に世間に知らしめるのは、かっこいい。本が本屋の本棚に並ぶと、かっこいい。メディアで自分の作品が紹介されると、かっこいい。自分の作品が映画化されたら、かっこいい。そしてエンドロールで自分の名前が流れたら、かっこいい。涙が出るね。人生で初めて嬉し泣きをする瞬間になるだろう。絶対に叶えたい。絶対に。叶えたい。だから今日もおれは芥川賞を目指し、文字列をこねこねし続けるのであったつづく